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GINA : BMWグループのデザイン哲学 既存のコンセプトに挑む大胆なビジョン

優れたデザインは情熱を掻き立てます。そして、優れたデザインの実現を目指す自動車メーカーにとって、顧客とクルマが密接な関係を築くことのできる環境を創り出すことは、これまで以上に重要になってきています。デザイナーは顧客がクルマに対して抱く美意識をさらに高め、さらにその美意識を促すことのできる手法を追い求めています。とりわけプレミアム・セグメントにおいて、顧客はクルマに対し、情熱をかき立てられることを求め、同時に自らの個性を表現できる一台であることを求めています。

デザイン、コンセプトカー

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Yosuke Shiroshita
BMW グループ

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Yosuke Shiroshita
BMW グループ

優れたデザインは情熱を掻き立てます。そして、優れたデザインの実現を目指す自動車メーカーにとって、顧客とクルマが密接な関係を築くことのできる環境を創り出すことは、
これまで以上に重要になってきています。デザイナーは顧客がクルマに対して抱く美意識をさらに高め、さらにその美意識を促すことのできる手法を追い求めています。とりわけ
プレミアム・セグメントにおいて、顧客はクルマに対し、情熱をかき立てられることを求め、同時に自らの個性を表現できる一台であることを求めています。BMW グループの
デザイン部門は新しいクルマをデザインするにあたり、顧客がクルマに抱いている実用性や多様性に対する強い要望を優先課題にしています。これらに対する革新的なアプローチ
のための基盤として、BMWグループのデザイン部門は画期的なコンセプトを導入しました。GINA「Geometry and Functions In "N"
Adaptions("N"によって適合する形態と機能)」と名付けられたこの基本コンセプトは、より自由にクルマをデザインすることを可能にするものです。乗る人の個性
をより豊かに表現し、さまざまな要求に応えることのできるデザインと機能性を備えた製品作りを実現するコンセプトです。
*「N」とは数学的な解釈では不定整数を表します。つまり、この場合の「N」とは、あらゆるものに適合できる形態や機能のことを示します。

21世紀に入り、顧客は製品、特に個人の移動の手段としての製品を購買するにあたっての意思決定は、はっきりとした意見や要求、そして自らの価値観に基づいた信念を持って
行なわれるようになりました。今日では、顧客が購入を決断する際の関心事や優先順位も変化しています。さらに重要なことは、こうした条件がさらに多様性を増している点で
す。こうした傾向は、今後も続くでしょう。すでにBMWグループでは製品ラインナップの拡大や、個性豊かなクルマを創造する可能性の拡大、顧客からの要求を重視した製品作
りといった手法によって、顧客の多彩な要望や高まる期待に応えています。

将来的な顧客の要望をベンチマークに
BMWグループのデザイン部門は、GINAを導入することで、将来の目標を達成するための手法を示しました。このコンセプトは、BMWグループのデザイン部門が、顧客から
もたらされるさまざまな要望を自動車開発における不可欠の要素として捉える姿勢と、その実現可能性を示したものです。BMWグループのデザイン部門のリーダー、クリスト
ファー・E・バングルは自信を持って次のように述べています。「お客様から寄せられる様々な要望は、私たちの製品をさらに拡張するばかりでなく、自動車産業を定義づける基
本的な価値観をも変えることになります。」この考え方が、これまで10年以上にわたりバングルの着想にヒントをもたらしてきました。そしてこの着想が、BMWグループのデ
ザイン部門に新たな境地を切り開き、先進的な手法を見出すためのきっかけを何度も与えてきました。こうして生まれた成果によって、顧客はBMWグループの製品に新たな期待
を抱き、その期待がさらに画期的な製品を開発するための原動力となるのです。

GINA: "N"によって適合する形態と機能
GINAは、デザイナーや開発・製造の担当者に既存の原則やプロセスを超越する新たな挑戦の機会を与えるものです。未来のクルマに有意義な効果をもたらすと思われる手法
は、既存のルールにとらわれることなく、可能な限り多くの視点から検討が加えられることで生み出されます。たとえば、「ルーフというものは本当にピラーの上に取り付けら
れ、その境界がウインドウと接していなければいけないのか?」、「必要とされていないときでも、あらゆる機能が常に乗る人の目に見えていなければいけないのか?」、また
「自分のクルマを個性豊かなクルマに仕立てるために、選択肢はいくつ用意されているのだろうか?」、「鋼材や樹脂以外に、剛性の高いボディ・シェルを作り上げる素材は存在
するのだろうか?」などのように、これまで常識とされていたことに対しても疑問が投げかけられます。

セグメントの枠を超えた画期的なデザイン手法や、個人のモビリティの未来に向けたビジョンは、こうした数々の疑問から生まれます。GINAの基本原則は、新たな素材の持つ
可能性や先進的かつ画期的な発想を、創造性豊かなデザイン手法と、既存の製造方法や素材に対する概念を超越した考え方に調和させることを目指したものです。BMWグループ
の子会社で、さまざまな業界各社を相手に世界規模で事業を展開するBMWグループ・デザインワークスUSAは、BMWグループの各デザイン・チームにも大きな刺激を与えて
います。このデザイン専門会社は、自動車エンジニアリング業界以外の、主に素材の開発・製造を手がける企業と共同で進めた数多くのプロジェクトから、多くの経験を学んでき
ました。

こうしたビジョンは、ライン生産のためだけに適した本質を持つものではありません。むしろ、創造性や研究開発の方向性を新たな分野に向けることを目的としています。こうし
たアプローチが、従来では考えられなかった画期的で潜在的な可能性を開拓することにつながります。その潜在性は、未来のクルマの外観や、素材や構造ばかりでなく、製造工程
をも考慮に入れたものです。将来の顧客が抱くと思われる要望は、ベンチマークとしての役割を果たします。GINAのフィロソフィーは、美しさばかりでなく、人間工学や機能
性など、顧客とクルマの間に生まれる感情や感性に訴える関係を築き上げる要素のすべてを扱います。

BMWグループは、「GINA ライト・ビジョナリー・モデル」というデザイン・コンセプト・モデルの開発によって、明確なビジョンに対する解答の一例を示します。
GINAのフィロソフィーによって示されたさまざまなアプローチは、このコンセプトが未来の自動車エンジニアリングに潜在的な影響力を示すために、模範的な形で適合させま
した。遠い将来には、現在使われている素材の特性や製造工程の限界がおとずれるものと予測されます。こうしたクルマが提供する画期的な技術は、いずれもドライバー個人個人
が走行中に抱く要求や、特定の走行条件において必要な要求を基礎として、形態と機能を可変的に適合させることに重点を置いています。このためエクステリアとインテリアに
は、見た目ばかりでなく、基本的な特性面でも従来とはまったく異なるさまざまなコンポーネントを備えています。例えばGINAライト・ビジョナリー・モデルでは、可動式の
構造部を、繊維を用いた継ぎ目のないボディ・パネルが覆います。各種の機能は、実際に必要とされる場合に限って用いることができます。これまで当然のように考えられてきた
機能や構造を抜本的に解釈しなおすことで、クルマを操るドライバーに、これまでとはまったく違った体験をもたらします。クルマをその本質とされる部分まで削ぎ落とし、ドラ
イバーの要求に適合させることによって、クルマが与えるインパクトはさらに強められ、GINAのフィロソフィーが目指す最大の目標が実現します。

画期的なコンセプトを生み出すビジョン
すでに確立されているものに対して挑戦し、新たな可能性を模索し、顧客の要望に重点を置くという戦略は、BMWグループが数多くの画期的なコンセプトを実践するための原動
力となっています。また、他の自動車メーカーでは予測もできないような、まったく新しい手法を採ることによって、ライン生産されている車両のデザインにも影響を与えていま
す。その斬新な特徴によって高い評価を受けた各種の革新的技術は、GINAのフィロソフィーを基礎としています。ビジョンから生産型モデルを創りあげる過程においては、確
固たるビジョンに裏打ちされたアイデアが新たなコンセプトへと姿を変えています。
例えばBMWのコンセプトカー、Xクーペによって表現された彫刻のようなデザインや、すべての生産車両に採用されているボディ表面の抑揚ある面構成は、革新力と新しいヴィ
ジョンによって生み出されています。この革新力の源は、なんら規制を受けない自由さであり、さらなるデザインの可能性を追求する姿勢を特徴付ける重要な要素です。Xクーペ
では、ボディ・パネルに使用する素材が持つ特徴も、デザインの要素のひとつとして組み込まれています。デザイン過程では、ひねりを持たせた三次元的な面構成とともに、素材
のリアクションから生まれた抑揚のある独特の造形美が活用されました。Xクーペを手本に誕生したBMW Z4のデザインは、その顕著な例といえます。

これら数々のデザインのビジョンは、まったく新しい製造技術が開発されることによってはじめて実現可能になります。これまでと同様に、GINAのフィロソフィーによって定
められた目標は、製造エンジニアたちが持つ専門的な知識や伝統的な手法を踏み越えることのできる能力の高さがあったからこそ実現できたのです。エンジニアの努力によって可
能となったデザイン手法は、クルマの美的水準や、製品の本質を表現する手段としてのデザインの重要性を大きく引き上げたばかりでなく、製造工程そのものの強化にもつながり
ました。

機能と形態の多様性が情熱をかき立てる
GINAのフィロソフィーに基づいた先進的なビジョンのいくつかは、2002年に発表されたコンセプトカー「CS1」のインテリアにも採用されました。このクルマのインテ
リアには、ドライバーが使いたいと思ったときにだけ見えるようになる操作スイッチ類が備えられていました。柔軟性の高いネオプレン素材でダッシュボードを覆ったことによ
り、ドライバーの注意を必要な機能に集中させることができるようになりました。このように、そのときの状況によって形態と機能を変化させる手法によって、ドライバーとクル
マとの対話はさらに円滑にできます。こうした機能によって、ドライバーは情緒的な反応を体験することになります。こうしたクルマの反応は、ドライバーがクルマを自分の希望
に適合させているという事実をこれを活用する際には、柔軟性のある素材を良く考えて配置することによって、複雑なメカニズムを組み込む必要性を排除できます。しかも、多彩
な用途を備えた外観はデザイン本来の魅力も備えています。

コンセプトカー「BMW Z9」に初めて装備され、「CS1」でさらに洗練度を増したコントロール・コンセプト「iDrive」は、多くのBMWの生産型モデルに搭載され
るコンセプトとして既に当たり前のものになっています。これは個々の走行状況に適した機能のみをドライバーに示すという原則に従ったもので、GINAのフィロソフィーが持
つ精神を完璧に強化するシステムといえます。コックピットはドライバーの要求に合わせて適応します。こうした相互作用の中でクルマを運転するため、ドライバーは、自身とク
ルマとの間に精神的な強いつながりを抱くようになります。

顧客に関連のある重要な各種機能の一体化
GINAの基本原則のひとつは、可能性をさらに拡張するため既存の手法にチャレンジし、それによって顧客の選択肢を広げることです。コンセプトカー「CS1」のエンジン・
ルームでは、エンジン・カバーの代わりに、柔軟性があって伸縮する素材を採用しています。グラフィック表示のディスプレイ・パネルには、特定の配列に従って点検整備に関連
する機能の情報が表示され、また冷却水やウォッシャー液タンクのフィラー・キャップへ簡単に手が届くようにジッパー式ファスナーが装着されています。点検整備の必要なさま
ざまな箇所を網羅し、その位置を特定し、作業を行うための数多くの機能が、感覚だけでわかる巧みな手法によって、ひとつのコンポーネントに統合されています。コンポーネン
トの配置を必要最小限のものにすることによって、アプローチは、資源の保護にも貢献します。

多彩な用途に対応するための迅速な生産
さまざまな分野における協力の結果、BMWは製造工程に送る前の段階で、従来通りの方法を用いながら高い精度で成型されたボディ・パネルを装飾することを可能にする手法を
開発しました。GINAのデザイン・フィロソフィーは、短時間でコスト効果も高く、個々の要望にも目を向けることのできる比類のない手法によってコンポーネント単体を製造
することで、迅速な生産にも応用されています。

こうした複数のプロセスが一体化された生産方法はBMW Z4 MロードスターとMクーペ用のフードの製造で初めて導入されました。両モデルの独特のボディラインは、従来
の板金加工とは大きく異なる独立した製造段階で作られました。フード上には、ロボットの操るスチール製のピンによってボディ・ラインが形作られます。こうしたアプローチ
が、まったく新しい方法で個性豊かな製品を作ることを可能にしました。迅速な生産によって、ボディやその他のコンポーネントがデザイナーの設計通りに作られる際でも、顧客
の嗜好を反映させることができます。

新たな素材と製造工程が本質的な魅力を作り上げる
BMWのコンセプト・クーペ「ミッレミリア2006」のコックピット表面は「折り紙工法(industrial origami)」と呼ばれる技術の影響を受けたもので、
一定のビジョンに基づいた革新的なデザインの一例です。ここでも、GINAのフィロソフィーを反映した手法が生み出されています。従来のコックピットと比較してコンポーネ
ント数を大幅に削減した一方で、異なる素材を組み合わせる新たな手法により、画期的コンセプトによる製造技術にさらに刺激を与えています。製造工程は、技術者の持つ専門的
な知識と技術に依存しています。こうした技術者の力量は、デザイン・ビジョンを具体化する際の前提条件でもあります。

さまざまなコンセプトカーのエクステリア・デザインは、明確なビジョンが与えられた着想を具体化することから生まれ、斬新なコンセプトを反映したものです。例えば、Xクー
ペの持つ彫りの深いデザインや、Z4で初めて採用されたボディ表面の抑揚による相互作用は、いずれも革新的なパワーを備えたビジョンに由来するものです。このパワーの源
は、なんら規制を受けない自由さであり、さらなるデザインの可能性を追求する姿勢を特徴付ける重要な要素です。このデザインでは、キャラクター・ラインとしてのスプライン
と、さまざまな抑揚ある面構成の自然な流れによる相互作用を意図的に用いています。

コンセプト・クーペ「ミッレミリア2006」のコックピットに用いられた金属加工のアイデアは、日本の折り紙をヒントにしたものです。形状的にも安定したこの3次元構造
は、2次元の薄板状のV2A金属に、レーザーによる切断や折り畳み加工を施することで生み出されます。エレメントを追加せずに換気のための機能をコックピットへ組み込むこ
とを狙いとして採用された接合部は、この技術によって作り出されたものです。最少限のツールから作られ、デザイン面でも本質的な魅力を備えた画期的な手法は、このようにし
て生まれたのです。

GINAの原則:持続可能な手法に重点を置く
GINAのフィロソフィーの目標には、さまざまな段階で持続可能性(サステイナビリティ)を追求することも含まれています。新たな素材や製造技術の研究では、より少ない原
材料とエネルギーによる手法が最重要視されます。コンポーネントの数や製造工程を最小限に削減することを目指したこのアプローチは、環境保護やコスト面でもメリットをもた
らします。社会的持続可能性を創出する試みの一環として、BMWでは高価な製造機器よりも、優れた専門担当者の持つ知識に依存した製造手法について研究を重ねています。

目的志向による新素材の研究、迅速な生産を始めとした、多くの製造機器を用いない製造工程の評価、そして既存の手法に対して絶えず挑戦を促すことによって、BMWグループ
ではかねてから、顧客のためにGINAのフィロソフィーを形にしたさまざまなツールを備えてきました。GINAライト・ビジョナリー・モデルなどの開発目標は、明確なビ
ジョンに裏打ちされた着想で可能性を追求しているデザイナーたちに対して、GINAのフィロソフィーの原則こそが最大限の自由をもたらしているのだと示しています。

こうしたアプローチは、形態と機能を個々の要望や走行条件に適合させるための新たな手法を見つける際にも活用されています。これらこそ、コンセプトカーに採り入れられ、生
産モデルにも刺激を与えるような画期的な着想を生む道を切り開くものなのです。

そしてこの道をたどることでデザイナーの持つビジョンは、これまでに確立された個性化の可能性をはるかに越える手法で、ドライバーとクルマとの間に密接な相互関係を生み出
す製品を作りだせるようになります。GINAのフィロソフィーによってBMWグループのデザイン部門は、こうした相互関係を支え、着実に進化させるとともに、ドライバーと
クルマとの間に精神的に強固なつながりを生むことに貢献できるようになりました。製品作りとその開発に際して、資源を無駄なく有効に利用することで、GINAの原則は持続
可能な未来のクルマ作りにも貢献します。GINAのフィロソフィーが持つ社会的な重要性は、開発の過程と、顧客の要望を高度に適合させるよって生まれたものなのです。

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