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インテグラルABS およびASC - BMWモーターサイクル用新型ライディング・ダイナミック・コントロール・システム
Mon Aug 21 12:00:00 CEST 2006 プレスキット
BMW Motorradの新世代インテグラルABSは、飛躍的な進歩を遂げています。つまり、ブレーキだけに作用する単独作動型からネットワークされた統合型システムへと発展したのです。新世代インテグラルABSを投入することで、BMW Motorradは技術的な要求や機能を抑えた新たなダイナミック・ライディング・コントロール・システムの基盤を築きました。また、新世代インテグラルABSは顧客の要望を理解することで、将来さらに多くのライダー支援機能を実現することができるよう選択肢を広げることにもなります。
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Yosuke Shiroshita
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Yosuke Shiroshita
BMW グループ
本プレスキットの内容は、ドイツ国内市場向け(2006年6月現在)の仕様を基準として記載されており、その他の市場においては仕様、標準装備品、オプション設定などが異 なる場合もあります。本プレスキットはBMW AG発表のデータを使用しているため、日本仕様とは異なる場合があります。なお、仕様は随時変更される可能性がありますので 予めご了承ください。 1. BMW新型ABSおよびASC ダイナミック・ライディング・コントロール・システム ショート・バージョン 2 2. 三世代にわたるBMWモーターサイクル用ABS 先駆的な偉業を振り返って 5 3. 新世代インテグラルABSの機能および技術 8 4. BMW新型ASCの機能および技術 13
BMW Motorradの新世代インテグラルABSは、飛躍的な進歩を遂げています。つまり、ブレーキだけに作用する単独作動型からネットワークされた統合型システムへ
と発展したのです。新世代インテグラルABSを投入することで、BMW Motorradは技術的な要求や機能を抑えた新たなダイナミック・ライディング・コントロール・
システムの基盤を築きました。また、新世代インテグラルABSは顧客の要望を理解することで、将来さらに多くのライダー支援機能を実現することができるよう選択肢を広げる
ことにもなります。
この方向に沿った第一段階のシステムとして、2007年から選択可能になるのがBMWモーターサイクル用オートマチック・スタビリティ・コントロール(ASC)です。これ
は、駆動輪の空転(スピン)を制御するシステムで、量産モーターサイクルとしては世界初めて、BMWのKシリーズ及びRシリーズのツーリング・モデルに工場オプションとし
て設定されます。
これにより、またもやBMWはモーターサイクルに先進的安全技術を導入する先駆者となります。BMW Motorradが15年以上も能動的安全性の分野で果たしてきた
リーダーシップは、さらに強化されます。
この2種類のシステムの適切な開発パートナーを選定するにあたり、言うまでもなく、BMW Motorradは制御技術とネットワーク技術の両方に秀でたパートナーを選択
する必要がありました。近年、主要な自動車部品サプライヤーは、モーターサイクル特有の技術的要件を理解するとともに、モーターサイクル用制御システム市場が発展する可能
性を認識しており、パートナー候補は数多く挙がりました。従って、開発パートナー選定の決定要因は、BMWモーターサイクル専用の技術的解決策を開発する意欲と能力でし
た。このことを考慮に入れた結果、2003年初旬からコンチネンタル・テーベス社とともに、新世代ABSブレーキ技術の共同開発を始めました。
インテグラルABS
BMW Motorradが提供する新しいインテグラルABSテクノロジーは、従来のシステムとは独立して開発され、全体的なレイアウトも基礎から新たに考え出されたもの
です。油圧制御技術と電子制御技術の進歩を活用し、開発エンジニアはシステムの構造を簡素化することに成功しました。一方、同時に機能をさらに高いレベルへと押し上げるこ
とにも成功しています。その結果、電動ブレーキ・アシスト機能を使用しなくても、最高の制動力と極めて短い制動距離を実現しています。
BMW Motorradの新型インテグラルABSは、従来型のプランジャー式やラム圧(動圧)方式ではなく、バルブによる制御方式をと採用しています。これは、自動車向
け制御コンセプトですが、今では非常に高いレベルの快適性と利便性を実現するレベルまで完成されています。具体的には、最近開発されたコントロール・バルブとコントロー
ル・システムによって、ブレーキ圧の調整時に発生するブレーキ・レバーへのフィードバックを、全く支障のない程度まで抑えることが可能となりました。このため、BMWの
トップ・セグメントのモーターサイクルにも、この新システムを導入する道が開かれたのです。
新型インテグラルABSシステムは、油圧回路だけでブレーキ圧をフロント・ブレーキに加えます。つまり、ハンド・ブレーキ・レバーに加えられた操作力に応じて作動するので
す。言い換えると、これによりスポーツ志向のライダーにとって極めて重要なブレーキ・フィールがさらにダイレクト感を増しています。ABS非装備のモーターサイクルから乗
り換えた場合でも、ライダーはブレーキ操作の変化に慣れる必要がありません。
新システムは実績のあるパーシャリー・インテグラル機能、つまりフロント・ブレーキ・レバーだけを作動させたときは、自動的にリア・ブレーキも作動させる機能を維持してい
ます。ただし、フットブレーキ・ペダルだけを踏んだときは、リア・ブレーキだけを作動させることができます。
従来のシステムと同様、このインテグラル・ブレーキ・システムの長所は、どのような条件下でも前・後輪に理想的な制動力を配分する点にあります。このとき、負荷条件を考慮
に入れるのは当然のことです。また、制御技術の向上により、ライダーは急制動時に後輪が浮き上がる危険性を早期に検出し、適切に対処することができます。
最善のインテグラル機能を提供するため、電子制御油圧ポンプがリア・ホィールのブレーキ回路にブレーキ圧を立ち上げます。これはフロント・ホィールのブレーキ回路から全く
独立してリア・ホィールのブレーキ圧を制御できるという利点があります。つまり、最終的にはその時々の状況に応じた理想的な制動力を常にリア・ホィールに配分するための前
提条件であり、完全独立型のブレーキ・マネージメントおよびコントロール・システムになっています。
油圧ポンプや電子部品に異常が発生した場合は、従来のシステムと同様にリア・ブレーキは油圧での作動となり、インテグラル機能無しで制動します。もちろんフロント・ブレー
キも正常に作動します。ただし、ABS機能は働きません。
ASC
オートマチック・スタビリティ・コントロール(ASC)は、高トルクのモーターサイクルで滑りやすく変化しやすい路面を走行するときには欠かせない、重要な新しいアシスト
機能です。言い換えれば、ASCはABSの発展システムともいえます。
ASCは、急加速時にリア・ホィールが空転し制御を失うのを防止し、タイヤの横方向のグリップ力と安定性を確保します。さらに、ホィールの浮き上がりを検知するリフト・オ
フ検知機能と制御に介入する機能は、全開で加速する際にフロント・ホィールが浮き上がるのを防止する役割も果たします。これら2つの機能が連動することで走行安定性を高
め、結果的により高いレベルの走行安全性を実現します。なお、ライダーは走行中でもASC機能をオフにすることができます。
ABSと同様に、ASCもモーターサイクルに作用する物理的法則を塗り変えるものではありません。つまり、ライダーが物理的限界を超えてコーナーに侵入した際に、ASCは
物理的限界を引き上げてバイクを前進させてくれるわけではありません。
基本原理について言えば、ASCシステムとそのさまざまな機能は極めて単純です。ABSホィール・センサーが各ホィールの回転速度を計測します。フロントおよびリア・
ホィールの回転数の差が急に変化したことを検知すると、リア・ホィールが空転する危険性を電子式コントロール・ユニットが検出し、瞬時にエンジン・コントロール・ユニット
が反応し、点火時期をリタードし、トルクを抑制します。これで十分でない場合、つまりエンジン・パワーをさらに大きく絞る必要がある場合、燃料噴射は一定期間中断されま
す。
これを行う統合制御システムは、瞬時に作動し、非常に優れた感度であるため、モーターサイクルの走行快適性や運動性能に対する影響はほとんどなく、実質的に無視できるほど
です。
2. 三世代にわたるBMW モーターサイクル用ABS
先駆的な偉業を振り返って
1988年春、モーターサイクルの専門家はBMWに対して、「技術革命」、「能動的安全性分野で最も重要な進歩」など、称賛の嵐を浴びせかけました。
これはBMWがBMW K 100に世界で初めてモーターサイクル用電子制御油圧式アンチ・ロック・ブレーキ・システム(ABS)を導入したときのことです。重量が
11.1 kgのBMW Motorradの革命的なABSは、最初から大成功を収めました。早くも1989年には、全購入者の約30%がABS装備のBMW K
100を注文しました。初代ABSテクノロジーが搭載されたBMWモーターサイクルは、1995年末までに約60,000台が販売されました。
このモーターサイクル用ABSは、自動車に使用されていたシステムとは形状も構造も全く異なっていました。当時の自動車用ABSシステムには、ブレーキ圧の生成・制御用に
パルス制御式の油圧制御バルブが組み込まれていました。つまり、快適とはいえないフィードバックもある程度は受け入れざるを得ない方式です。当時のバルブ機構では、
ABSの作動中に発生する圧力パルスは、ブレーキ・ペダルにはっきり伝わりました。
このフィードバック(別名バックラッシュ)は、モーターサイクルでは当然受け入れ難いものでした。特に新技術を導入した暁には、多くのライダーに使ってもらいたいという考
えだったので、なおさらでした。実際にABSテクノロジーを乗用車に初めて導入したとき、顧客はABSの作動中にブレーキ・ペダルが振動し、異音が発生することに不満の声
をあげました。
このような理由から、BMW Motorradは当時のドイツ大手総合ベアリング・メーカーFAG社と共同で、全くフィードバックやバックラッシュを発生させずに作動する
プランジャー方式を開発しました。これは、ABS機能がオンになっているときは常にプランジャーがブレーキ液量を制御することで、ブレーキに作用する圧力が制御されるシス
テムです。ABSモード時は、機械式ボール・バルブが油圧でブレーキ・レバー(ハンドブレーキまたはフットブレーキ・レバー)を切り離すことで、ライダーがレバーから感じ
る可能性のある、あらゆる種類の圧力パルスの発生は回避されていました。
ABS搭載車両の顧客からは、これは適切な技術的解決策が好感を持って迎えられました。
第2世代のABSブレーキ・テクノロジーであるBMW Motorrad ABS IIは、1993年初期に市場に導入されました。BMW Motorradの新世代4バ
ルブ・ボクサーの第一号モデルであるR 1100 RSに搭載されたのです。
この第2世代ABSの重量(5.96 kg)は初代ABSの半分強に過ぎず、寸法もはるかにコンパクトでした。最新のデジタル技術を駆使した電子システムを採用することに
より、信頼性は極めて高いレベルへと向上しました。しかし、最も顕著な改良点は制御システムでした。内蔵型ストローク測定機能により初期の制御サイクル中にシステム内でプ
ランジャーが移動する適切なストローク(距離)を測定し、ほんの数サイクル後には最適なブレーキ圧を供給します。その後、必要なのは最小限の調整だけです(ライダーが摩擦
係数の突然の変化に遭遇しない限り)。実際のところ、これはタイヤが最大限の摩擦力を発揮するまで、しなやかに、そして滑らかにブレーキをコントロールして、モーターサイ
クルの制動力をフルに生かすことができました。
この優れた技術を導入した結果、ABSを装備したBMWモーターサイクルの販売台数は、ドイツで約90 %まで急増し、全市場平均でも78 %と目覚しい成長を遂げまし
た。2000年までには世界中で約200,000人のBMWユーザーが、ABS付きのモーターサイクルを選択しました。
第3世代のABSブレーキ・テクノロジーであるBMW MotorradインテグラルABSは、INTERMOT 2000モーターサイクル・ショーで発表され、
2001年春に市場に導入されました。またしても、これは将来に対する革命的なステップとなり、電動式ブレーキ・アシストをモーターサイクルで初めて採用しました。この新
しい技術は、ブレーキ操作力の多寡に関わらず、最大限の制動力とブレーキ性能を発揮します。このため、経験不足のライダーが急ブレーキ操作を行っても、必ず制動距離を最小
限に短縮することができました。
もうひとつの特徴は、フロントおよびリア・ホィールのブレーキ回路にインテグラル・ブレーキ機能が接続されていることです。内部圧力センサーを初めて採用し、構成するシス
テム全体が機能することにより、荷重に応じた制動力がモーターサイクルのフロントおよびリア・ホィールに配分されました。
このように機能範囲が強化されたにもかかわらず、第3世代は先代よりも20%軽量化され、重量は4.35 kgとなりました。
インテグラル・コントロール機能付きの第3世代ABSブレーキ・テクノロジーは、再びBMWモーターサイクル・ユーザーに大歓迎を受けました。2005年までに、全
BMW モーターサイクルの80%以上が、この革新的システムを装備しました。ABS装備率が90%を越えるモデルもありました。2005年末までに、合計
280,000台のインテグラルABS装備のBMWモーターサイクルが販売されました。ABSを装備したBMWモーターサイクルの販売総数は、2003年9月までに
500,000台を越えました。
また、2000年にはBMW Motorradのエントリー・モデルであるF 650 GSに、ABSが標準装備されました。これはボッシュ製のバルブ方式で、インテグラ
ル機能はありませんでした。というのも、コンパクトかつ軽量で、魅力的な価格を実現することが、このセグメントのモーターサイクルにとって絶対不可欠な条件だったからで
す。
その後、2006年には、これに改良が施されたシステムが、ニューF 800 S/ST及びニューR 1200 Sスポーツ・ボクサーにも導入されました。このシステムの
重量は、わずか1.5 kgです。
3. 新世代インテグラルABSの機能および技術
新世代ABSブレーキ・テクノロジーを導入することにより、BMW MotorradはインテグラルABSにもバルブ仕様の圧力制御を装備した最先端のシステムに移行しま
す。油圧技術の進歩、コントロール・バルブ技術の進歩、電子技術の進歩によって、今ではプランジャー・コンセプトや動圧コンセプトと同じ最小限のフィードバックで快適に操
作することができるようになりました。
BMW Motorradの新型インテグラルABSの場合、ブレーキ油圧技術とバルブ制御技術の基本構成は、他のバルブ制御型ABSシステムと同じです。BMWのシステム
の特徴は、圧力管理コンセプト、インテリジェント制御戦略の活用、インテグラル機能にあります。このシステムのインテグラル機能はセミ・インテグラル方式です。つまり、ハ
ンド・ブレーキ・レバーでフロント・ブレーキを作動させると、同時にリア・ホィールのブレーキ回路が自動的に、同じプロセスで作動します。一方、フットブレーキ・ペダルで
はリア・ブレーキだけが作動します。
BMW Motorrad新型インテグラルABSは、2006年夏の後半より従来のシステムに替えて新型KシリーズおよびRシリーズの対象全モデルに導入されます(つま
り、BMW R 1200 Sは除く)。
油圧および圧力制御機能
BMW Motorradの新型インテグラルABSの基本原理は、シンプルです。ライダーの手動操作でブレーキ・レバーを操作すると、メイン・ブレーキ・ピストンが作動し
てブレーキ圧を生成し、開いているバルブ(インテーク・バルブ)を介して直接適切なホィール・ブレーキに伝達されます。ホィールのロック傾向をホィール・センサーと電子コ
ントロール・ユニットが判断すると、直ちにインテーク・バルブが閉じ、ホィール・ブレーキ回路と並列に配置されたアウトレット・バルブが瞬時に開きます。このため、ブレー
キ・フルードはアウトレット・バルブからリザーバー・タンク(低圧タンク)に流れ込み、適切なホィールのブレーキ圧を、非常に短時間に(必要な場合は無圧状態まで)低下さ
せます。
このバルブ動作は電動式油圧ポンプが作動すると同時に起こり、ホィール・ブレーキ回路から流れ出たブレーキ・フルードを制御回路に還流させ、各ブレーキ回路の流量を相殺し
ます。その後、ホィールが再び自由に回転できるようになると、アウトレット・バルブが閉じてインテーク・バルブが開き、ブレーキ・レバーからメイン・ブレーキ・ピストン間
に再び油圧回路が確立されます。
ライダーがブレーキ・レバーで立ち上げたブレーキ圧によって、再びブレーキ・キャリパーの内部圧力が上昇します。最終的にはバルブを適切に制御し、作動させることがブレー
キ圧の調整に役立ちます。その結果、その時点の摩擦係数や路面状況に合わせてホィールに作用する制動力が調整されます。
システム圧力を微調整できるアナログ式圧力制御機能
インテーク側には断面を調整可能な最新の油圧制御式バルブが装備されています。バルブを適切に制御し動作させることで、ホィールで圧力を立ち上げる際に流量を連続してコン
トロールすることができます。その結果、アナログ式のブレーキ圧制御が実現します。したがって、事前に規定された開口部断面によってバルブ開閉時の動作を単純で「明確な」
制御に限定することで、従来のバルブ方式と比べて極めて高いレベルの制御品質と精度を発揮します。
適切な制御ロジックにより、BMW Motorrad新型インテグラルABSは制御サイクル中でも迅速に圧力を立ち上げ、システム圧力を高精度に調整することができます。
言い換えると、これにより圧力パルスが低下するため、結果的にハンド・レバーの「キックバック」も小さくなり、制御プロセス全体がより滑らかに、さらに快適なものとなりま
す。
新たにシステムに組み込まれた3個の圧力センサーは、圧力変化をを継続的にモニターします。システム圧力をこのような方法で制御、測定し、前のサイクルを評価することで、
システムは必要に応じてブレーキ圧を積極的に制御し、圧力をそれぞれ最適なレベルに設定することができます。これによりABSモードでブレーキが作動中でも、制御回数や圧
力レベルを引き下げることができます。摩擦係数が突然変化した場合、初期制御サイクルの後に必要なのは、ブレーキ圧の微調整だけです。その結果、それぞれの摩擦限界に近い
最適な制動力を維持したままブレーキを滑らかに快適に作動させることができます。ブレーキ圧の制御幅が比較的小さく、前後の軸荷重が変化するような状況では、結果的にモー
ターサイクルの動きは最小限に抑えられます。このため、走行安定性が高まり、ライダーは優れた総合的安全性を享受します。
BMW Motorrad新型インテグラルABSでは、もはや電動式ブレーキ倍力装置は必要ありません。むしろ、最近開発されたブレーキ油圧装置の方が、極めて短時間に圧
力を立ち上げることができます。同様に重要なことは、制御段階で圧力が自然に低下することです。このため、どんな状況でもライダー特有の制動力のニーズに対してシステムは
瞬時に反応し、油圧操作だけでも滑らかで高精度な制御を実現します。
完全独立型の各ホィール・ブレーキ回路
BMW MotorradインテグラルABSのフロントおよびリア・ホィールのブレーキ回路は、互いに完全に分離されています。つまり、油圧回路のリンク接続が全くありま
せん。このため、特にフロント・ブレーキのプレッシャー・ポイントが明確に設定されているため、どんな条件下でもいつでも明快で分かりやすいブレーキ・フィールを実現しま
す。
フロント・ホィールのブレーキ圧は、ライダーがハンド・レバーを操作してメイン・ブレーキ・ピストンを作動させる従来通りのプロセスで生成され、フロント・ブレーキ・キャ
リパーに直接作用します。前述のとおり、ABS制御機能が必要な場合は、必ず電子コントロール・ユニットがブレーキ回路のバルブを介してブレーキ圧を調整します。
ライダーがフットブレーキを踏むと、リア・ホィール・ブレーキも作動します。ライダーがフットブレーキ・ペダルだけを踏み続けている間は、フットブレーキが機械/油圧プロ
セスを経て必要なブレーキ圧を生成します。つまり、リア・ブレーキだけを作動させる圧力を立ち上げます。必要に応じて(例えばホィールがロックする恐れがある場合)、ブ
レーキ圧はABSバルブ・システムを介して適切にコントロールされます。
電子油圧制御式高圧ポンプでブレーキ圧を生成するインテグラル・ブレーキ
インテグラル機能を作動させるため、ライダーがハンド・ブレーキ・レバーを引くとすぐに、電子油圧制御の高圧ポンプが積極的にリア・ブレーキのブレーキ圧を生成します。こ
のポンプはライダーがフロント・ホィールにブレーキをかけるたびに自動的にオンになり、フロント・ホィールのブレーキ回路に取り付けられた圧力センサーによってコントロー
ルされます。フロント・ホィールのブレーキ圧に対応するため、コントロール・ユニットは事前に設定されている制動力配分に基づいて、自動的にリア・ブレーキに適切な圧力を
立ち上げます。フロント・ホィールのブレーキが作動するたびに、このようにしてリア・ホィールは理想的に減速されます(セミ・インテグラル機能)。
インテグラル機能を使用している場合でも、ライダーはフットブレーキを使ってインテグラル・システムによるブレーキ力よりも強い力をリア・ホィール・ブレーキにかけること
ができます。ライダーはABSが介入するリア・ホィールのロック・ポイントに達するまで、この操作を行うことができます。ライダーが使用するブレーキ圧がインテグラル機能
によって生成された圧力より弱い場合、ライダーによるフットブレーキ操作は作用しません。したがって、リア・ホィールのブレーキはインテグラル機能に基づいて作動します。
フロント・ホィールとリア・ホィール間の理想的な制動力配分は、モーターサイクルの積載荷重に応じて変化します。また、インテグラル・ブレーキは適宜調整することで、荷重
状態を考慮することができます。ABSモードでブレーキを作動する場合は、必ずホィール回路のホィール・ロック圧力を比較して、システム内の圧力を測定することで、モー
ターサイクルの現在の積載荷重を判断し、制動力の配分を調整します。
またインテグラル機能では、ブレーキ圧が電子制御油圧式高圧ポンプによって生成されるため、どんな条件下でもフロント・ホィールの減速度(理想配分)、荷重状態、摩擦係数
に応じて、リア・ホィールのブレーキ圧が調整されます。
常にライダー固有の希望やブレーキ操作に対して重点を置くことができるのは、実際にこの圧力生成方式だけです。油圧ポンプが作動しない場合、フットブレーキの並列油圧回路
が自動的に作動します。このため、リア・ホィールのブレーキは従来の油圧ブレーキと同じ方法で作動します。
高度な安全性と安定性を実現するセミ・インテグラル機能
過小評価されがちであるため、再びここで強調しておきたい重要なことがあります。それは最適な制動力をフロントおよびリア・ホィールに独立して配分するセミ・インテグラ
ル・ブレーキというコンセプトの長所です。つまり、一般的な日常走行時、「通常の」条件下において許容減速度内でブレーキを作動させる場合に、セミ・インテグラル方式であ
れば、リア・ホィールもかなりの制動力を路面に伝えることができるという利点が生まれるのです。タイヤの横方向のグリップ力は制動力が強まるに連れて低下するため、フロン
ト・ホィールとリア・ホィールに最適に制動力が配分されると、全体の安全限界も横方向の安定性も高められます。これは、特にコーナリング途中のブレーキ操作の際には大きな
利点となります。コーナリング途中で突然、制動力と減速力が必要になった際に、最大限が提供されることになるからです。
ライダーがこのような状況で一方のホィールのブレーキだけを作動させた場合、当該ホィール(通常はフロント・ホィール)は全ての制動力を伝達することになります。したがっ
て、当該ホィールの横方向のグリップ力と安定性は低下せざるを得ません。
それに反してインテグラル・システムは、フロント・ホィールとリア・ホィールに理想的に制動力を配分します。このため、高レベルの横方向グリップ力と安定性がそれぞれの
ホィールに与えられます(当然、ABSモードに入っていないことが前提です)。したがって、その都度物理的限界内で、最高のブレーキ安定性が発揮されるのです。
セミ・インテグラル機能は急制動時に横方向のグリップ力を上昇させるだけでなく、リア・ホィールの浮き上がりをより確実に検出します。従来のデュアル・チャンネル式
ABSブレーキ・システムでは、ホィール回転信号でしか評価することができませんでしたが、BMW Motorradのインテグラル方式ではさらに多くの情報を利用するこ
とができます。たとえば、前後ブレーキ回路の両方の圧力信号と、フロントおよびリア・ホィールの回転速度をモニターすることで、制動力の強さとリア・ホィールの浮き上がり
傾向を測定します。
したがって、システムは走行安定性と最高の制動力を発揮するため、特にフロント・ホィール側のブレーキ圧を低下させることにより、こうした挙動を効果的にタイミング良く是
正します。もうひとつの重要な利点は、システムが積極的に現在の走行状態を検出し、モーターサイクルの積載荷重も考慮する点にあります。
システムの心臓部としての役割を果たす、コンパクトで軽量な圧力モジュレーター
BMW Motorrad インテグラルABSの機能ユニットは、すべて圧力モジュレーターに内蔵されています。このコンパクトなコントロール・システムは、コントロー
ル・バルブ、圧力センサー、油圧ポンプ、電動モーターだけでなく、電子制御コントロール・ユニットも調整します。
したがって、圧力モジュレーターは、まさにBMW Motorradインテグラル・ブレーキ・システムの心臓部だといえます。それにもかかわらず重量はわずか2.3
kgしかなく、結果的に先代システムより約50%も軽くなっています。
診断機能およびフェールセーフ機能
BMW Motorrad新型インテグラルABSの長所として、自己診断機能があります。全ての機能およびセンサーは、システムの電子頭脳によって常時モニターされていま
す。
先代システムと比べて、エンジン始動後に行われる初期設定時間が極めて短くなっています。仮に不具合が発生した場合、不揮発性メモリーに不具合が記録され、後日、ワーク
ショップで読み出すことができます。同様に、電気部品や電子部品が故障した場合は、コントロール・バルブが機械的に(スプリングの力によって)基本位置まで移動します。こ
のため、ABSが装備されていない従来のブレーキ・システムと同じように、常にブレーキ操作部とブレーキ・キャリパーとの間にはダイレクトな油圧接続が維持されます。こう
した状況において、ブレーキは制動力と操作力に応じて通常通り作動しますが、ABS制御とインテグラル機能はなくなります。
オフロードで使用する際、オフにすることができるABS
R 1200 GSおよびGSアドベンチャーに乗るライダーは、オフロードで使用する際にBMW Motorradの新型インテグラルABSをオフにすることもできます。
ただし、ABSをオフにしても、オフロード走行時に非常に役に立つ可能性のあるインテグラル機能は維持されます。たとえば、路面がぬかるんだ坂道でモーターサイクルを所定
の位置に維持するためにライダーがインテグラルABSに対して行わなければならないことは、ハンド・ブレーキ・レバーを引くことだけです。これで強い影響を持つリア・
ホィールのブレーキ(軸荷重がリア・ホィールに変化するため)が作動して、モーターサイクルを所定の位置に安全に維持し、後退するのを防止します。
さらに、このような状況での発進も容易になります。ライダーは足を使ってブレーキを作動させる必要がありません。したがって、必要に応じて両足を使ってしっかりと大地を支
えることができます。
4. BMW 新型ASCの機能および技術
オートマチック・スタビリティ・コントロール(ASC)は、リアの駆動輪が空転するのを抑制し、制御します。したがって、ASCは滑りやすい路面で加速する際にリア・
ホィールが制御を失ってスリップするのを防止し、横方向の安定性が失われる可能性を回避するのに役立ちます。
ABSとよく似た理論で機能するASCは、モーターサイクルの運動性能を制御する高度なライダー・アシスタント・システムの第一歩となるシステムです。現在、BMWは量産
モーターサイクルにオプション装備としてトラクション・コントロールを提供する世界で唯一のモーターサイクル・メーカーです。2007年にASCが導入されると同時に、顧
客はこの革命的な新システムを注文することができます。対象は新Rシリーズです。ただし、R 1200 Sスポーツ・ボクサーとK 1200 GTは除きます。
ASCはインテグラルABSとセットでのみ装備可能です(ASC非装備のABSのみも従来通りに選択可能)。
ASCは滑りやすい路面での加速時にライダーを支援し、特に路面状態が急速に変化して路面のグリップ力と摩擦に関する評価が難しい場合、特別な安全性を提供します。ただ
し、ASCは、たとえば、全開加速やコーナリング時の急加速をラフに行っても大丈夫にするために考えられたシステムではありません。
通常の物理的限界の範囲内であれば、ASCはコーナリング中にリア・ホィールが横に流れる傾向を軽減することができるため、モーターサイクルの走行安定性を高めるのに役立
ちます。ただし、注意すべき重要な点があります。それはASCがモーターサイクルの物理的限界を高めることはできないという点です。つまり、低い角度でハング・オンをした
状態でのエンジン・パワーを緻密にコントロールする必要性からライダーを解放するものではありません。
ASCのもうひとつの機能は、全開で加速する際にフロント・ホィールが浮き上がるのを防止します。これは特別な安全性を提供するために大いに貢献します。
機能および制御
ASCはABSホィール・センサーを使用して各ホィールの回転速度をモニターし、これらのセンサーが提供する診断機能も作動させます。同様に、エンジンの電子頭脳がフロン
トおよびリア・ホィールの回転速度を比較して、ホィールがスリップするかどうかを判定します。
リア・ホィールがスリップする傾向にあることをシステムが検出すると、エンジン・コントロール・ユニットがデータに基づいて介入し、タイヤが伝達できる限界値に駆動力を設
定します。このプロセスの第一ステップは、点火時期をリタードすることによりトルクを下げることです。
エンジン・パワーをさらに大幅に絞る必要が生じた場合、燃料噴射は一定期間中断されます。
この制御機能の長所は、迅速で敏感な点です。快適性と運動性能が損なわれることはまずありません。この機能が作動したことは、メーター・パネルの警告灯が高速で点滅するこ
とでドライバーに知らせます。ASCを使用したくない場合は、走行中でもボタンを押すだけでいつでもASCをオフにできます。
GSモデル用の新たなオフロード設定
R 1200 GSとR 1200 GSアドベンチャーをオフロードで使用するために、コントロール・システム内に新たに開発されたオフロード設定が組み込まれています。
この特別なオフロード・モデルは、ぬかるんだ路面でホィールがスリップしたり空転したりすることを考慮に入れたモデルです。このため、こうした状況でもさらに高いレベルの
スリップが可能になります。ASCボタンを押すと、ライダーはオンロード・モードからオフロード・モードに切り替えることができます(逆の場合も同じ)。このオフロード設
定は、オンロード走行には向いていないので注意が必要です。
コントロール・システムの統合による最高の機能安全性および信頼性
ASCは、BMW Motorradの新型インテグラルABSとエンジン・コントロール・ユニット全体の一環としてプログラムされているASCソフトウェアと同時に開発さ
れたものです。このため、別個にASCコントロール・ユニットを設定する必要はありません。結果的に重量が削減でき、取り付けのために必要な空間も小さくて済みます。ま
た、システムを完全に統合することで、新たに配線して接続する必要がなく、安全性を向上し、相互の干渉による危険性を最小限に抑えています。
全ての電子制御機能と同様に、ASCにも自己診断機能と故障メモリーが装備されており、モーターサイクルの整備時にデータを読み出すことができます。ASCが使用できない
場合、メーター・パネルの警告灯が点灯してライダーに知らせます。